民法第25条第1項(不在者の財産の管理)の条文

第25条(不在者の財産の管理)

1 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。

2 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。




民法第25条第1項(不在者の財産の管理)の解説

趣旨

本項は、管理人が置かれていない場合の不在者の財産管理について規定しています。

従来の住所(第22条参照)または居所(第23条第1項参照)を去った者(=不在者)が、あらかじめ財産を管理する者(=管理人)を置かなかった場合は、家庭裁判所は、債権者や親族などの利害関係人または検察官の請求により、その財産の管理について必要な処置ができます。

また、あらかじめ管理人を置いた場合であっても、本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同じように扱います。

例えば、財産の管理に関する委任契約が終了した場合などが該当します。

不在者が管理人を置いていない場合や管理人の権限が消滅した場合、親族や契約の相手方(=債権者など)などの利害関係人が困る場合があります。

このような場合、親族や債権者は、不在者に無断でその財産などを処分することはできません。

民法では、不在者や管理人がいないからといって、利害関係者が勝手にその不在者の財産を処分することは、許されません(自力救済の禁止)。

このため、本項により、家庭裁判所が不在者の財産について必要な処分を命じます。

家庭裁判所による「必要な処分」とは

ここでいう必要な処分とは、主に財産管理人の選任です(家事審判規則第32条)。

また、一般的には、財産の封印、財産の競売などもできると解されています。




契約実務における注意点

本項は、契約実務においては、自分や契約の相手方が長期間住所から離れるようなことがある場合に問題となる規定です。

当然、財産管理人を置いている場合は特に問題になりませんし、また、IT機器の発達により、そもそも管理人を置く必要すらない場合もあります。

しかしながら、財産管理人を置くことができないような緊急事態により住所を離れたり、連絡が取れないような場所に財産管理人を置かずに長期間滞在する場合は、本項により、家庭裁判所の命令を受けることになります。

なお、財産管理人との財産管理の契約は、一般的には、委任契約が中心となります。

この際、管理方法、財産管理人の権限、契約期間(特に期限切れとならないように)などに注意して規定します。

また、財産管理人を置かない不在者を相手にしなければならないような状況になった場合は、勝手に処理しようとせずに、本項にもとづき、家庭裁判所に処分の請求をします。

すでに述べたとおり、勝手に不在者の財産を処理することは、民法上禁止されています。

場合によっては、刑事事件にもなりかねませんので、注意してください。

注意すべき契約書

  • 委任契約書
  • 不在者を相手方としたすべての契約書