民法第148条第1項(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)の条文

第148条(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)

1 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

(1)強制執行

(2)担保権の実行

(3)民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売

(4)民事執行法第196条に規定する財産開示手続又は同法第204条に規定する第三者からの情報取得手続

2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。




民法第148条第1項(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)の解説

趣旨:差押えなしの強制執行等も時効の完成猶予事由

本条は、強制執行等があった場合における時効の猶予について規定しています。

時効は、次の各号の事由(完成猶予事由)によって、その事由が終了するまで、完成が猶予されます。

裁判上の請求等による時効の完成猶予の事由
  • 強制執行
  • 担保権の実行
  • 形式競売
  • 財産開示手続

取下げ・取消しにより終了した場合は6ヶ月延長

また、本項のかっこ書きにより、取下げ・取消しによりこれらの完成猶予事由が終了した場合は、その終了の時からさらに6ヶ月を経過するまでの間は、時効の完成は猶予されます。

これに対し、取下げ・取消しがない場合は、本条第2項により、その事由が終了した時点から、時効が更新されます。




用語の定義

完成(時効)とは?

【意味・定義】完成(時効)とは?

時効制度における完成とは、時効の期間が満了することをいう。

完成猶予(時効)とは?

【意味・定義】完成猶予(時効)とは?

時効制度における完成猶予とは、特定の事由が存在する間に、時効は進行するものの、時効の完成が一定期間は猶予されることをいう。

更新(時効)とは?

【意味・定義】更新(時効)とは?

時効制度における更新とは、特定の事由が発生した場合に、時効の期間がリセットされて、新たに時効期間の進行が開始することをいう。




改正情報等

新旧対照表

第148条(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)新旧対照表
改正法旧法

改正第148条(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)

1 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

(1)強制執行

(2)担保権の実行

(3)民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売

(4)民事執行法第196条に規定する財産開示手続又は同法第204条に規定する第三者からの情報取得手続

2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。

旧第148条(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)

前条の規定による時効の中断は、その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

強制執行等の追加

本項の改正は、旧民法第148条を削除のうえ、時効の完成猶予事由として、強制執行等を追加したものです。

旧民法では、表現のうえでは、「差押え」(旧民法第147条第2号)が時効の中断事由として規定されていました。

他方で、差押えを伴わない強制執行については、特に明記されていませんでした。

そこで、この改正により、強制執行等が時効の完成猶予事由として明記されました。

旧民法第148条は改正民法第153条へ

旧民法第148条の内容は、改正民法第153条へ移行しました。

「中断」「停止」から「完成猶予」「更新」へ

旧民法では、時効について、「中断」という用語が使われていました。

この「中断」は、改正後の「完成猶予」と「更新」の両方の意味で使われており、非常に理解しづらいものでした。

このため、平成29年改正民法では、時効制度全般において、「中断」の用語の意味を整理し、内容に応じて、「完成猶予」と「更新」に改めました。

「停止」から「完成猶予」へ

旧民法における時効の「停止」については、あたかも時効の進行そのものが停止するかのような誤解の原因となりかねないものでした。

このため、こちらも併せて「完成猶予」という表現に改められています。