民法第154条(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)の条文

民法第154条(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)

第148条第1項各号又は第149条各号に掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、第148条又は第149条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。




民法第154条(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)の解説

趣旨:強制執行等・仮差押え等はそれだけでは完成猶予・更新が生じない場合もある

本条は、強制執行等(第148条第1項)、仮差押え等(第149条)による時効の完成猶予・更新について規定しています。

強制執行等・仮差押え等は、時効の利益を受ける者に対しておこなわない場合、その者に通知をおこなった後でなければ、時効の完成猶予・更新の効力を生じません。




民法第154条(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)の補足

強制執行等・仮差押え等は必ずしも時効の利益を受ける者におこなうとは限らない

強制執行等・仮差押え等は、必ずしも時効の利益を受ける者に対して直接おこなわれるとは限りません。

このため、時効の利益を受ける者以外の者に対して強制執行等・仮差押え等をおこなった場合は、時効の利益を受ける者に対して通知した後でなければ、時効の中完成猶予・更新の効力は効果を生じません。

通常、時効の完成猶予・更新の効力は、原則として、時効の完成猶予事由・更新事由が生じた当事者(およびその承継人)の間においてのみしか生じません(第153条参照)。

本条は、これらの規定の例外として、時効の完成猶予事由・更新事由が生じた者以外の時効の利益を受ける者に対する通知により、その者について、強制執行等・仮差押え等による時効の完成猶予・更新の効力を発生させるものです。

具体例

例えば、金銭債権の消滅時効に関しては、次のとおりです。

民法第154条により時効の完成猶予について通知が必要な場合の具体例

ある金銭債権について、第三者が所有する不動産に抵当権が設定されている場合、債権者がこの不動産について抵当権を実行したときは、その第三者に対して、第147条第1項により、時効の完成猶予の効力が生じる。

他方で、債務者(消滅時効の利益を受ける者に相当)には、第153条第2項により、時効の完成猶予の効力が生じない。

このため、本条にもとづき、債権者が債務者に対して通知することにより、債務者について、時効の完成猶予の効力が生じる。




判例

最高裁判決昭和50年11月21日

上記の具体例と同様の事案において、不動産の競売開始の決定正本が債務者に対して送達された場合は、債務者は、被担保債権の消滅時効の中断(当時)の効果を受けるとされます(最高裁判決昭和50年11月21日)。

物上保証人に対する抵当権の実行により、競売裁判所が競売開始決定をし、これを債務者に告知した場合には、被担保債権についての消滅時効は中断する。




改正情報等

新旧対照表

民法第154条(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)新旧対照表
改正法旧法

改正民法第154条(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)

第148条第1項各号又は第149条各号に掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、第148条又は第149条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。

旧民法第154条(差押え、仮差押え及び仮処分)

差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。

本条は、平成29年改正民法(2020年4月1日施行)により、以上のように改正されました。

改正情報

旧民法第154条は改正民法第148条第2項ただし書きへ移行

旧民法第154条の内容は、改正民法第148条第2項ただし書きにおいて規定されました。

これにより、本条は削除のうえ、時効の相対効の例外(旧民法第155条)が移行され、表現が改められました。

旧第155条(差押え、仮差押え及び仮処分)

差押え、仮差押え及び仮処分は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の中断の効力を生じない。

「中断」「停止」から「完成猶予」「更新」へ

旧民法では、時効について、「中断」という用語が使われていました。

この「中断」は、改正後の「完成猶予」と「更新」の両方の意味で使われており、非常に理解しづらいものでした。

このため、平成29年改正民法では、時効制度全般において、「中断」の用語の意味を整理し、内容に応じて、「完成猶予」と「更新」に改めました。

「停止」から「完成猶予」へ

旧民法における時効の「停止」については、あたかも時効の進行そのものが停止するかのような誤解の原因となりかねないものでした。

このため、こちらも併せて「完成猶予」という表現に改められています。